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百合かな?
キス表現あり。苦手な方は避けてください。
百合かな?
キス表現あり。苦手な方は避けてください。
私――何の変哲もないただの少女、詩乃。特徴は、毎晩必ず夢を見ること。そして、それを鮮明に記憶していること。
私の夢は、どうやら人に言わせるとおかしいらしい。私は夢に落ちると、必ずある場所にいるのだ。中世ヨーロッパのような、白い石畳の街。そこで私は、肌触りのいい、フリルのたくさんついた豪華なワンピースを着て、街の中心の噴水に面したベンチに座っているのだ。
・・・あぁ、眠くなってきちゃった。もう寝ようかしら。
夢に落ちる、この感覚さえ私は正確に記憶している。無論夢の展開は毎回ある程度は違うのだが、噴水による細かいしぶきを受けながらベンチに座っている場面から必ず始まる。
おかしなことに、夢の中の私と現実の私は寸分たがわず3D化されコンピュータの世界に入ってしまったような感じでもある。違うところといえば、身につけているものくらいか。現実世界の私は、夢の中の私のように豪華な服を着ることはないし、夢の中の私は、現実の私のように長い金髪を銀のリングでまとめたりはしない。まあ後者の場合は服に合わせたコーディネイトなのだろうから、違いとは言えないのかもしれないけれど。
そして「私たち」は、同じように成長してきた。生まれた頃の赤ん坊のときの夢の記憶はさすがにないけれど、4歳か5歳くらいから夢日記をつけているから、少なくともその頃から私は同じ夢を見ていることになる。正確には同じ夢というわけではなく、同質の夢とでもいうべきものか。ともかく、夢の中の私は現実の私が成長するに従って同じように成長してきたのであった。
・・・ほら、考えているうちに私はもうベンチに座っている。現実世界の季節とはリンクしていない、いつでも暖かな日差しが私を迎える。背後で轟音をたてながら落ちる水からのしぶきが、首筋に降り注いで涼しくさえある。そして、私はいつもここである人を待っている。・・・彼女、だ。
「しーのっ」
「あっ、待ってたんだよ!」
私を迎えにくるその人の名前は、琴夢。風景に似つかわしくない、日本人の名前。
やや黄がかった翠の透きとおるような美しい髪に、少し低めの身長。碧い瞳の目は滴りそうなほどの光沢を湛え、まるで宝石のような美しさを醸し出している。そして、この人は私と同い年・・・夢の中で成長する人だった。
――私たちは友達なのか?
答えは、そうかもしれないし、そうではないかもしれない。
――じゃあ他人か?
答えは、それはない。
恐ろしく曖昧な世界に、私と彼女はいるのだ。
琴夢が、私の隣に腰掛ける。私に体重を預けるようにして寄りかかり、長い髪をさらっと後ろに流して空を見上げる。雲ひとつなく真っ青に透きとおった空。いつもと変わりない、空。
「ねぇ」
琴夢が口を開く。
「なぁに?」
「今日は、何しよっか?」
「うーん・・・」
決定権は、ほぼ隔週くらいのペースで入れ替わる。今週は、私に決定権がある週だった。
「そうだねぇ、ウィンドウショッピングとか」
「いいね、そうと決まったら早く行きましょっ」
適当に言ったことだったが、琴夢は毎回喜び勇んで私の提案を受け入れる。したがって私も、彼女の提案を笑って受け入れる。どちらかが笑うことをやめたら、きっともろくも崩れ去ってしまう微妙な関係だった。
彼女も、私と同じようなワンピースを着ている。靴はハイヒールではないが、それでも割と高級そうな美しい革靴だった。たったった、と小気味いい音を立てて、琴夢が街の商店街へと走り出す。私も置いて行かれるまいと、同じような小気味いい音を立てながら走りだした。
「うわぁ、この服もいいかも」
琴夢は、服を選ぶのが好きだ。服と結婚してもよさそうなくらい服が好きだ。
「ねぇ詩乃、あの服私に似合うかな?」
琴夢が指さしているのは、ある服屋のショーウィンドウだった。金の縁取りがついたフリルだらけの白いスカートと、裾が長く襟付きの白いシャツに、その上から羽織るための水色のカーディガンのような柔らかそうな服がセットになっていた。全体的に薄い色調のため、琴夢の翠の髪ともよく合いそうだ。
「・・・うん、すごく似合うと思うよ」
「やっぱり! ところで詩乃は欲しい服ないの?」
もちろん私は自分に似合いそうな服を探している。しかし、持前の童顔と黄色に近い金髪のせいで、服に負けてしまうようなパターンが多いのだ。まるで服に着られているよう、とは私のためにある言葉なんじゃないかって思うくらい。
「うーん、ほしい服はいっぱいあるけど、似合うかどうかが問題なの」
私は素直にそう述べる。一瞬琴夢はしまったという表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込めて高々と宣言した。
「じゃあ、私が今日中に詩乃に似合う服を探してあげる!」
屈託なく笑う琴夢を見ていると、この人ならやってくれそうだという気持ちが不思議と沸き起こってくるのだった。
「ほーら、これなら詩乃にだって似合うわ。グッジョブ私!」
テンションの高い琴夢に対し、私は結構冷血で冷めた思考をする人間だった。それでも、人の好意を甘んじて受け入れられないほど馬鹿ではないし、恩知らずでもない。私は琴夢が選んでくれた服を店で買い求め、更衣室を借りてさっと着替えた。
その服は素晴らしかった。今まで着ていた服もかなり肌触りが良くてきれいな服だったけど、これに勝るものではなかったと思う。
明るい緑を基調としたチェック柄の上下セットで、ゆったりしたものだった。背中が開いていたり、胸元が大きく出たような派手なデザインではなく、一般庶民用という質素な感じが、私を引き立たせてくれるのだそうだ。ただし材料は一級品だし、そもそもこの街には庶民などいはしない。誰もが高級品を買い求め、豊かな暮らしを営んでいるのだから。
この服を選んでくれた琴夢はというと、隣の店でさっき自分で発見した服を買っていた。よっぽど気に入ったのだろう。ウィンドウショッピングといいながら彼女が服を買い求めるなど、滅多にないことだ。
店から出ると、琴夢も服を着替えて店から出てきたところだった。タイミングの良さにお互い笑い、そしてまた街を歩きだす。
「似合ってるよ、詩乃」
「琴夢、やっぱり綺麗だなぁ」
私がよっぽど羨望のまなざしで見ていたのだろうか、彼女は顔をそらすと、ポケットから何か出した。見せてもらうと、真鍮製の懐中時計。
「さっき服のついでに買ったのよ。ちょっと重たいけど、きっと詩乃が使ってたら似合うし、様になると思うのよね」
私は、その懐中時計を開いてみる。蓋の裏には写真が入るように小窓が設けられていて、見ればだいぶ前に撮影した、私と琴夢の写真が入っていた。にっこり笑った幸せそうな過去の私たちの顔を見て、思わず現在の私もにっこりと笑ってしまう。懐中時計は、夕方の4時過ぎを示していた。若干、心臓の鼓動が痛い。
「そろそろ、お別れの時間かしら」
琴夢が残念そうに言う。その声に、ずっと懐中時計に向けていた視線を琴夢に戻すと、不意打ちが来た。
――口同士が触れる程度の、キス。
「・・・っ!」
いつも行っている、別れの儀式みたいなものだ。今更恥ずかしがるほどのことじゃないと自分でも思うが、やっぱり頬が赤くなるのは止めようがない。顔を両手で覆うと、今度は、
「ほーら、悲しそうな顔しないの」
誤解されたらしく、琴夢が笑ってみせる。両手を離して琴夢の方を向いたが、その顔にも、しばしの別れへの悲しさが含まれていた。
「ありがと・・・」
無理やりその二つの意味を持つ一言だけを紡ぎ、私たちは無言でベンチに向かう。
そう。時間になると、私たちはベンチに吸い寄せられるように戻ってきてしまう。抗いがたい力で、物理的ではない不思議な力で引っ張られているかのような・・・。
「詩乃」
「ん?」
ベンチに腰掛けると、琴夢が私の肩に頭を預けてきた。身長も座高もわずかに私の方が上なので、肩に乗っかったりはしない。お互いまだ買ってから半日しかたっていない真新しい服に身を包み、こうして座っているのは、ほっと心の安らぐ時間だった。
今日一日何をしたのかを、頭の中で反芻する。ベンチに座っていると、いつも通り琴夢が来たこと。流れでウィンドウショッピングをすることになり、商店街へ繰り出したこと。何故か予定が変更になり、結局ショッピングになってしまったこと。・・・そして、琴夢からもらった、真鍮の懐中時計。きっと、宝物になる。
「詩乃、この前みたいにここにいない日があったら、私悲しいんだからね・・・」
「・・・うん」
私が現実側で徹夜でもしようものなら、夢を見ることがないため琴夢が困るということは、だいぶ前に知った。10歳頃だったろうか、私はある分厚い本に綴られた物語に夢中になり、夜ふかしにとどめるつもりが朝まで読書してしまったのだった。その次の日の夢と来たら、琴夢の暴走のせいで悪夢に近い状態だった。
そのとき、琴夢が私のことをずっと待っていて、ずっと私のことを想っていてくれたことを知った。私からすれば、眠っているときにだけ会えるただの空想上の友達に近いものだったが、その瞬間琴夢は私の中で、はっきりとした「友人」となった。
彼女も私と同じように、何かあれば悲しむし、不安にもなるし、嬉しければ喜ぶのだ。
だから、
「大丈夫だよ、明日もちゃんとくるから」
「・・・ほんとだね? 約束だよ、詩乃」
私が現実世界に戻るときすなわち目覚めるとき、琴夢の話によれば私は光になって消えていくのだそうだ。なんとも不可思議な話である。
正直、別れ際の琴夢の顔と来たらとんでもない顔だ。涙を無理やり我慢しているせいで、端正な顔立ちがくしゃくしゃになってしまっている。普段は励ます側だけど、なんだかんだで琴夢もさびしがり屋なのだ。私は琴夢の頭を撫でてやって、その細い肢体をぎゅっと抱きとめた。急速に眠りに落ちていくのを感じながら。
目が覚めると、私はただの少女。あの真新しい服なんてもう着てはいなくて、普通のパジャマ姿だ。しかし、あの服が無下にされたわけではない。次に眠ったときにしっかり受け継がれるのだから。
私はベッドから降りて時間を確認する。7時ちょうど。
今晩は、いったいどんな夢かしら。なんて思いながら、私は机の上に置いてある夢日記を開き、ペンで夢の内容をさらさらと書き記していった。
私の夢は、どうやら人に言わせるとおかしいらしい。私は夢に落ちると、必ずある場所にいるのだ。中世ヨーロッパのような、白い石畳の街。そこで私は、肌触りのいい、フリルのたくさんついた豪華なワンピースを着て、街の中心の噴水に面したベンチに座っているのだ。
・・・あぁ、眠くなってきちゃった。もう寝ようかしら。
夢に落ちる、この感覚さえ私は正確に記憶している。無論夢の展開は毎回ある程度は違うのだが、噴水による細かいしぶきを受けながらベンチに座っている場面から必ず始まる。
おかしなことに、夢の中の私と現実の私は寸分たがわず3D化されコンピュータの世界に入ってしまったような感じでもある。違うところといえば、身につけているものくらいか。現実世界の私は、夢の中の私のように豪華な服を着ることはないし、夢の中の私は、現実の私のように長い金髪を銀のリングでまとめたりはしない。まあ後者の場合は服に合わせたコーディネイトなのだろうから、違いとは言えないのかもしれないけれど。
そして「私たち」は、同じように成長してきた。生まれた頃の赤ん坊のときの夢の記憶はさすがにないけれど、4歳か5歳くらいから夢日記をつけているから、少なくともその頃から私は同じ夢を見ていることになる。正確には同じ夢というわけではなく、同質の夢とでもいうべきものか。ともかく、夢の中の私は現実の私が成長するに従って同じように成長してきたのであった。
・・・ほら、考えているうちに私はもうベンチに座っている。現実世界の季節とはリンクしていない、いつでも暖かな日差しが私を迎える。背後で轟音をたてながら落ちる水からのしぶきが、首筋に降り注いで涼しくさえある。そして、私はいつもここである人を待っている。・・・彼女、だ。
「しーのっ」
「あっ、待ってたんだよ!」
私を迎えにくるその人の名前は、琴夢。風景に似つかわしくない、日本人の名前。
やや黄がかった翠の透きとおるような美しい髪に、少し低めの身長。碧い瞳の目は滴りそうなほどの光沢を湛え、まるで宝石のような美しさを醸し出している。そして、この人は私と同い年・・・夢の中で成長する人だった。
――私たちは友達なのか?
答えは、そうかもしれないし、そうではないかもしれない。
――じゃあ他人か?
答えは、それはない。
恐ろしく曖昧な世界に、私と彼女はいるのだ。
琴夢が、私の隣に腰掛ける。私に体重を預けるようにして寄りかかり、長い髪をさらっと後ろに流して空を見上げる。雲ひとつなく真っ青に透きとおった空。いつもと変わりない、空。
「ねぇ」
琴夢が口を開く。
「なぁに?」
「今日は、何しよっか?」
「うーん・・・」
決定権は、ほぼ隔週くらいのペースで入れ替わる。今週は、私に決定権がある週だった。
「そうだねぇ、ウィンドウショッピングとか」
「いいね、そうと決まったら早く行きましょっ」
適当に言ったことだったが、琴夢は毎回喜び勇んで私の提案を受け入れる。したがって私も、彼女の提案を笑って受け入れる。どちらかが笑うことをやめたら、きっともろくも崩れ去ってしまう微妙な関係だった。
彼女も、私と同じようなワンピースを着ている。靴はハイヒールではないが、それでも割と高級そうな美しい革靴だった。たったった、と小気味いい音を立てて、琴夢が街の商店街へと走り出す。私も置いて行かれるまいと、同じような小気味いい音を立てながら走りだした。
「うわぁ、この服もいいかも」
琴夢は、服を選ぶのが好きだ。服と結婚してもよさそうなくらい服が好きだ。
「ねぇ詩乃、あの服私に似合うかな?」
琴夢が指さしているのは、ある服屋のショーウィンドウだった。金の縁取りがついたフリルだらけの白いスカートと、裾が長く襟付きの白いシャツに、その上から羽織るための水色のカーディガンのような柔らかそうな服がセットになっていた。全体的に薄い色調のため、琴夢の翠の髪ともよく合いそうだ。
「・・・うん、すごく似合うと思うよ」
「やっぱり! ところで詩乃は欲しい服ないの?」
もちろん私は自分に似合いそうな服を探している。しかし、持前の童顔と黄色に近い金髪のせいで、服に負けてしまうようなパターンが多いのだ。まるで服に着られているよう、とは私のためにある言葉なんじゃないかって思うくらい。
「うーん、ほしい服はいっぱいあるけど、似合うかどうかが問題なの」
私は素直にそう述べる。一瞬琴夢はしまったという表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込めて高々と宣言した。
「じゃあ、私が今日中に詩乃に似合う服を探してあげる!」
屈託なく笑う琴夢を見ていると、この人ならやってくれそうだという気持ちが不思議と沸き起こってくるのだった。
「ほーら、これなら詩乃にだって似合うわ。グッジョブ私!」
テンションの高い琴夢に対し、私は結構冷血で冷めた思考をする人間だった。それでも、人の好意を甘んじて受け入れられないほど馬鹿ではないし、恩知らずでもない。私は琴夢が選んでくれた服を店で買い求め、更衣室を借りてさっと着替えた。
その服は素晴らしかった。今まで着ていた服もかなり肌触りが良くてきれいな服だったけど、これに勝るものではなかったと思う。
明るい緑を基調としたチェック柄の上下セットで、ゆったりしたものだった。背中が開いていたり、胸元が大きく出たような派手なデザインではなく、一般庶民用という質素な感じが、私を引き立たせてくれるのだそうだ。ただし材料は一級品だし、そもそもこの街には庶民などいはしない。誰もが高級品を買い求め、豊かな暮らしを営んでいるのだから。
この服を選んでくれた琴夢はというと、隣の店でさっき自分で発見した服を買っていた。よっぽど気に入ったのだろう。ウィンドウショッピングといいながら彼女が服を買い求めるなど、滅多にないことだ。
店から出ると、琴夢も服を着替えて店から出てきたところだった。タイミングの良さにお互い笑い、そしてまた街を歩きだす。
「似合ってるよ、詩乃」
「琴夢、やっぱり綺麗だなぁ」
私がよっぽど羨望のまなざしで見ていたのだろうか、彼女は顔をそらすと、ポケットから何か出した。見せてもらうと、真鍮製の懐中時計。
「さっき服のついでに買ったのよ。ちょっと重たいけど、きっと詩乃が使ってたら似合うし、様になると思うのよね」
私は、その懐中時計を開いてみる。蓋の裏には写真が入るように小窓が設けられていて、見ればだいぶ前に撮影した、私と琴夢の写真が入っていた。にっこり笑った幸せそうな過去の私たちの顔を見て、思わず現在の私もにっこりと笑ってしまう。懐中時計は、夕方の4時過ぎを示していた。若干、心臓の鼓動が痛い。
「そろそろ、お別れの時間かしら」
琴夢が残念そうに言う。その声に、ずっと懐中時計に向けていた視線を琴夢に戻すと、不意打ちが来た。
――口同士が触れる程度の、キス。
「・・・っ!」
いつも行っている、別れの儀式みたいなものだ。今更恥ずかしがるほどのことじゃないと自分でも思うが、やっぱり頬が赤くなるのは止めようがない。顔を両手で覆うと、今度は、
「ほーら、悲しそうな顔しないの」
誤解されたらしく、琴夢が笑ってみせる。両手を離して琴夢の方を向いたが、その顔にも、しばしの別れへの悲しさが含まれていた。
「ありがと・・・」
無理やりその二つの意味を持つ一言だけを紡ぎ、私たちは無言でベンチに向かう。
そう。時間になると、私たちはベンチに吸い寄せられるように戻ってきてしまう。抗いがたい力で、物理的ではない不思議な力で引っ張られているかのような・・・。
「詩乃」
「ん?」
ベンチに腰掛けると、琴夢が私の肩に頭を預けてきた。身長も座高もわずかに私の方が上なので、肩に乗っかったりはしない。お互いまだ買ってから半日しかたっていない真新しい服に身を包み、こうして座っているのは、ほっと心の安らぐ時間だった。
今日一日何をしたのかを、頭の中で反芻する。ベンチに座っていると、いつも通り琴夢が来たこと。流れでウィンドウショッピングをすることになり、商店街へ繰り出したこと。何故か予定が変更になり、結局ショッピングになってしまったこと。・・・そして、琴夢からもらった、真鍮の懐中時計。きっと、宝物になる。
「詩乃、この前みたいにここにいない日があったら、私悲しいんだからね・・・」
「・・・うん」
私が現実側で徹夜でもしようものなら、夢を見ることがないため琴夢が困るということは、だいぶ前に知った。10歳頃だったろうか、私はある分厚い本に綴られた物語に夢中になり、夜ふかしにとどめるつもりが朝まで読書してしまったのだった。その次の日の夢と来たら、琴夢の暴走のせいで悪夢に近い状態だった。
そのとき、琴夢が私のことをずっと待っていて、ずっと私のことを想っていてくれたことを知った。私からすれば、眠っているときにだけ会えるただの空想上の友達に近いものだったが、その瞬間琴夢は私の中で、はっきりとした「友人」となった。
彼女も私と同じように、何かあれば悲しむし、不安にもなるし、嬉しければ喜ぶのだ。
だから、
「大丈夫だよ、明日もちゃんとくるから」
「・・・ほんとだね? 約束だよ、詩乃」
私が現実世界に戻るときすなわち目覚めるとき、琴夢の話によれば私は光になって消えていくのだそうだ。なんとも不可思議な話である。
正直、別れ際の琴夢の顔と来たらとんでもない顔だ。涙を無理やり我慢しているせいで、端正な顔立ちがくしゃくしゃになってしまっている。普段は励ます側だけど、なんだかんだで琴夢もさびしがり屋なのだ。私は琴夢の頭を撫でてやって、その細い肢体をぎゅっと抱きとめた。急速に眠りに落ちていくのを感じながら。
目が覚めると、私はただの少女。あの真新しい服なんてもう着てはいなくて、普通のパジャマ姿だ。しかし、あの服が無下にされたわけではない。次に眠ったときにしっかり受け継がれるのだから。
私はベッドから降りて時間を確認する。7時ちょうど。
今晩は、いったいどんな夢かしら。なんて思いながら、私は机の上に置いてある夢日記を開き、ペンで夢の内容をさらさらと書き記していった。
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プロフィール
HN:
詩乃
年齢:
31
性別:
非公開
誕生日:
1993/03/14
職業:
専門学校生
趣味:
SS執筆、ゲーム、Twitter
自己紹介:
【詩乃】
趣味でSSを書いてます。
恋愛の形としては、そこに愛さえあればどんな組み合わせでもいいと思う。
・・・という理念の下、創作活動を行っております。
趣味でSSを書いてます。
恋愛の形としては、そこに愛さえあればどんな組み合わせでもいいと思う。
・・・という理念の下、創作活動を行っております。
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